公立図書館で月刊「コピライト」「最新号」の掲載論文がコピーできなかった件


Copy & Copyright Diaryの記事をみて、新潟県立図書館に月刊コピライト7月号の
阿部浩二先生の講演録「
著作権(著作隣接権)の保護期間について」を探しに行った。「保護期間」をめぐる国内外の議論を過去にさかのぼって広範に検討しており、たしかに上の記事の通り、非常に参考になる内容であった。しかもこれだけの濃厚な内容が、「講演録」なのである。講演として聞くには、それなりの予備知識がないと厳しかったかもしれない(たぶん専門家向けのものだったとおもうが)。

さて、7月号には、作花文雄先生の「Googleの検索システムをめぐる法的紛争と制度上の課題〔前編〕」という興味深い論文も掲載されていて、ぜひ両方ともコピーして家でゆっくり読もうと思ったのだが。「著作権法」を理由としてコピーも貸し出しもできません、と言われてしまった。たしかに世間での解釈に照らすとそうなるようだ。が、なんとも納得できない気分が残った。

県立図書館の窓口にも掲示されていた、著作権法31条は以下の通り。

(図書館等における複製)
第三十一条 図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。

      一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合
      二 図書館資料の保存のため必要がある場合
      三 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合

つまり、同条一号にいう「発行後相当期間を経過した定期刊行物」に、最新号の雑誌はあたらないので、雑誌の最新号に掲載されている個々の著作物「全体」は、コピーできないということになる(一部分だけならいいんだけど、この点については何も言われなかった)。雑誌の最新号をコピーしようとすることは(今はもう)めったにないし、院生時代に大学図書館等でのセルフコピーを頻繁にやっていた頃には、何も気にせずに最新号をコピーしていたのだろう。しかし、今現在はこうした運用が一般的になっている(少なくとも図書館は、この点を利用者に周知徹底をしなければならないようだ)。

著作権情報センターが作ったQ&Aの解説を見てみると。

リンク: ケーススタディ著作権 第3集.

次号が発行された場合に相当期間を経過したものと判断しているのは、通常次号が発行されれば前の号は一応経済的役割が終わったということで権利者の利益も損ねないだろうとの考えに基づくものと思われます。

ここは、解釈の根拠となる部分。定期刊行物の最新号に含まれた記事を、まるまる全部コピーできてしまうと、権利者の利益を損ねることになるが、定期刊行物の場合、次の号が出る頃には権利者の利益も損ねることはないだろうという理解だ。次の号が出るまでにかなりのブランクがあるものの場合には、3ヶ月を「相当期間」ということにしているようだ。

なお、一部の専門雑誌では、巻末などにバックナンバーの紹介をしているものがありますが、出版物の取り寄せが必ずしも特殊な入手方法ではないことから考えると、バックナンバーの入手が可能なものについては、次号が発行されたからといっても相当期間を経過したと判断するのは難しいのではないでしょうか。

バックナンバーの入手の容易さもまた、一つの目安になるという考え方が示されている。Fujisan.co.jpを見ると、結構な数の雑誌の1年ぐらい前までのバックナンバーが、入手可能になっている。ということは、結構な数の雑誌に関する「相当期間」というのが、この理屈で行くと延長されていってしまう可能性がある。

さて、個別論に入るが、今回僕が入手しようとしたのは、月刊コピライトという雑誌に掲載された記事だ。月刊コピライトは、著作権情報センター(CRIC)から出されている雑誌で、著作権に関する良質の論文が掲載されている。実はこの雑誌は非売品で、賛助会員だけに毎月送られている。賛助会員になるには入会金2万円、年会費5万円がかかり、「学生や個人研究者(弁護士、行政書士、弁理士などの個人事業者は除く)の年会費は減額することがありますのでご相談ください」という但し書きがある。

# 今日この但し書きがあることを初めて発見したが、いずれにしても非常に不明瞭なルールだと思う。今度「ご相談」してみようと思うが。

公立図書館には無料で配られているのだろうか、なぜか所蔵されている確率が高い。稚内市立図書館にも奇跡的に所蔵されていたのだが、その「奇跡」が図書館には理解してもらえないようで、保存期間一年で廃棄するといっていた。年会費5万円を払っているのに、いさぎよく一年で捨てているのだろうか。そう考えると、たぶん公立図書館には無償配布されているんじゃないかと思う。

さて、そういうわけで、この雑誌を一般の人が入手するには、入会金2万円、年会費5万円を払うしか方法がない。かつて日経BPの雑誌の多くも定期購読でしか入手できなかったし、今でも定期購読のみの販売形態をとる雑誌もあるので、とりたてて特別とはいいがたいかもしれない。「発行後相当期間を経過」の解釈として、次の号が出ているかどうかを基準としているのは、各号が個別に一般書店で販売されているケースを想定したものだからであろう。同じ基準をこのケースに当てはめるのは、妥当ではないように思う。

また、入手困難性というもう一つの基準に照らすならば、おそらくコピライトの場合には、新しい号が出ようが出まいが、各号の入手の困難さはそれほど変わらないはずだ。もちろん古い号は在庫がなくなってしまうことがあるので、その点で古いものから順に入手困難になるとは思うけれども、新しい号が出たとたんに古いものが入手困難になることはない。逆に一般書店では売っていないので、新しい号だけ入手が容易だということも全くない。最新号であろうとバックナンバーであろうと、月刊コピライトはFujisan.co.jpで入手できないのだ。

さらに複雑な気持ちにさせられるのが、この月刊コピライト、実は私的録音録画補償金制度の「共通目的事業」の一部として、sarah(社団法人私的録音補償金管理協会)及びSARVH(社団法人私的録画補償金管理協会)から助成を受けて発行されているものだということだ。共通目的事業というのは、「著作権、著作隣接権の保護に関する事業、および著作物の創作の振興と普及に資する事業」のことで、私的録音録画補償金として支払われた金額(管理手数料を控除後の額)の20%が、配分される。平成18年度のsarahの事業報告書によると、18年度の共通目的事業対象基金は279,024,534円(消費税を含む)、これに前年度繰越分及びCRICの返還金等を加えた、当年度に共通目的事業を実施するための基金総額は、471,907,969円(消費税を含む)であり、「コピーライト誌の発行・頒布事業(CRIC)」(コピライトが正しい)には、14,820,976円が助成されている。「頒布」といっている部分が、ひょっとして公立図書館に無料で配っていることを意味しているのだろうか。それとも単なる通信費だろうか。いずれにせよ、sarahの基金からはこの金額が助成されていて、これとは別にSARVHからも助成されているものと考えられる(SARVHの事業報告書も公開資料で探したのだが、pdfファイルでばらばらに公開されていて、しかもコピライトに関するCRICからの報告書が見当たらなかった)。

CRICの事業は、月刊コピライトを含めて非常に質の高いものが多く、これらに対して私的録音録画補償金から助成が行われることは、使い道として非常に妥当であるとは思う。しかし著作権に関するより深い理解を促進するはずの、この月刊コピライトが、賛助会員に配るのみの非売品となっていることについては、改善の余地があるように思う。なにより、CRIC自らが解説している通り、入手困難なこの雑誌は、図書館に頒布されても、最新号はコピーができない(貸し出しもしない)。しかも保存期間1年ぐらいで結構な確率で廃棄されている(んじゃないかと思う)。結局この問題も、先日取り上げたアジ研の問題と同様、あまり経営的に寄与していない、タテマエとしての賛助会員制度がかかえる矛盾に帰結するのだろう。

ネット上のコンテンツは玉石混交で、質の高い文章だけが、本なり雑誌になりに掲載される。出版物をお金を払って買うというのはぜいたく品だし、ぜいたく品に掲載されるのは、それだけの質のあるものだけ。それでいいだろう。コピライトに掲載されているような専門家の論文は、高級すぎて図書館に行って読むか、賛助会員になるしか読む術がない。それでいいのかもしれない。しかし著作権に関する議論は今日、一般ユーザも含めて、多くのネットユーザが関心を持っている事柄であり、権利者団体だけのものではない。そればかりかコピライトに執筆されている記事の多くも、こうした関心にこたえるような内容のものが多いと思う。私的録音録画補償金から助成されている雑誌として、せめて雑誌の個別販売はしてほしいなあと思うし、希望者には無償で配るような雑誌でもいいんじゃないかと思う。無償配布のために補償金が使われているということであれば、「共通目的事業」としての理解も高まるのではないだろうか?

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