「マレーシアの秋葉原」での暴動を増幅したソーシャルメディア

Photo by Dustin Iskandar

Photo by Dustin Iskandar on Flickr]

今日からマレーシアは、ラマダン明けのハリラヤ休暇に入りました。イスラム教徒マレー人たちが、1ヶ月に渡る断食を終えて、国中がお祝いモードになっています。

ラマダン期間中に、マレーシアではナジブ首相の不正疑惑が高まり日本でも報道されるに至りましたが、これを打ち消しかねない勢いで問題になったのが、Plaza Low Yatでの騒ぎです。こちらは日本でほとんど報道されていなかったのですが、Record Chinaなど、いくつかのウェブメディアが翻訳した記事を出しています。マレーシア社会ならではのできごとではあるのですが、ネット世論と社会の調和、またソーシャルメディアの発信者に対する規制に関連して、紹介します。

今月11日、マレーシア人の青年がクアラルンプールの携帯電話販売店で窃盗を働き、発見した中国系の店員が取り押さえて警察に引き渡した。ところが同日の夜、マレーシア青年の仲間7人は店に訪れ、中国系の店員を襲い、店を荒らした。これを発見した中国系の青年グループは店員に加勢し、マレーシア青年のグループと乱闘となった。

マレーシアで中国系青年と地元グループが乱闘、「反中」広が…:レコードチャイナ

Plaza Low Yatはクアラルンプールの繁華街ブキビンタンにあるビルの名前で、マレーシアで「デジタル」「IT」といえばここ、「マレーシアの秋葉原」というようなところです。大小様々な携帯ショップ、PCショップが入居しています。このビルに入ったことはなくとも、クアラルンプールを訪れた日本の人の多くも、この近くを通っていると思います。

万引きで捕まった青年が、仲間を連れて報復に来たという話ですから、治安上の問題に発展するほどのことはなさそうなのですが、暴動に発展してしまいます。

翌12日にはマレーシアのネットで関連の書き込みが集中。「中国系住民が経営する携帯電話販売店がニセモノを販売」「中国系住民が先に手を出した」といった真偽が定かではないコメントが寄せられ、反中ムードが漂った。そして同日夜に数百人のマレーシア住民が店の近くの広場でデモを実施。警察の出動で広場から撤退したものの、暴徒化したデモ隊は当初の200人から500人の規模にまで拡大。付近を行進し、バイクのヘルメットで華字メディアの関係者などに危害を加えた。さらに自動車や公共物を破壊、暴動は10時間近く続いた。

マレーシアで中国系青年と地元グループが乱闘、「反中」広が…:レコードチャイナ

Plaza Low Yatの従業員は中華系ばかりというわけではないと思うのですが、マレー系の人たちには中華系にだまされた経験がある人も多いということなのでしょうか。どちらでもない私は、マレーシアでこうした電器店にいくと「値段は交渉するもの」という意識でいかなければならず、大変面倒でもあり、しかしがんばれば値段も下がるので「Best Priceをくれ」と必ず言おうとも思っています。そもそも電気製品は、店頭で動かして見せる習慣があるほど、売手と買手の信頼関係が乏しくもあり、みなさんさまざまな経験をしているということなのでしょう。「ニセモノを販売した」という話はデマだったにもかかわらず、これに抗議するマレー系の人たちが集まり、暴動に発展したというわけです。

日本語の記事には出てきませんが、暴動に直接関わった人たちだけでなく、ソーシャルメディア上で人種間の対立を煽ったとされる人たちが、扇動法違反の疑いで逮捕されています。

Umno chief arrested over comments on Low Yat brawl | Free Malaysia Today

1人はPapagomoとして知られるブロガー、もう1人は与党UMNOペナン支部で幹部となっている人物で、容疑は必ずしも明瞭ではないのですが、ソーシャルメディア上の発言が人種間対立を煽ったということのようです(すでにUMNOの幹部は釈放)。また、Plaza Low Yat前に集まったマレー系の人々を前にして、人種差別的な演説をした人物も、同様に逮捕されています(彼もすでに保釈)。演説はマレー語なので、私にはわからないのですが、翻訳されたものを見ると、「ここはマレーの国だ。団結し、失礼な華人を倒せ」というようなことを行っています。たしかに穏やかではないのですが、私には警察が取り締まるべき問題には思えませんでした。

日本でもヘイトスピーチ規制が取り沙汰されていますが、マレーシアではすぐに治安問題に発展しかねないので、ソーシャルメディア上での人種差別発言に厳しく対処している様子が見てとれます。メディアに対する政府のコントロールも強いマレーシアで、コントロールしにくいソーシャルメディアについても、このように取り締まりの手が伸びてきています。そこに危うさを感じていないのか、非常に気になるところです。

「偏った」新聞をつぶせという意見が出る日本ですが、たとえ偏っていてもそれがただちに私たちの平穏な生活を脅かすことはありません。逆にマレーシアでは、治安への懸念が大きいために、表現の自由を担保する重要性が、軽んじられているところがあります。人々はこれを国柄ゆえのやむをえない制約と考えているのか、それとも実はなんとか変えていきたいと思っているのか、もちろん人それぞれとは思いますが、なかなか空気を感じ取ることはできません。

ただ面白いのは、警察側もまたTwitterを使っているところ。警察トップIGPのTan Sri Khalid Abu Bakarさんが、この問題を人種問題に転化させるべきではないといったと英字紙Starが伝えています。元のTweetはマレー語なので詳しい内容まではわからなかったのですが、警察トップがTwitterで(少なくとも見かけは)個人的に「発信」しています。日本では見られない現象でしょう。

IGP: Don’t turn Low Yat Plaza melee into a racial issue – Nation | The Star Online

いろいろ制約がありつつも、ソーシャルメディアが社会の中に浸透し、手を焼きながらも、政府もまたそれを使わざるを得ないという状況と見ることもできそうです。

この騒動のあと、対立をとりなすように、中華系の若者たちがマレー系のハリラヤソングを歌っている動画が、ソーシャルメディアで広がりました。これが政府のキャンペーンだったらと疑えばきりがありませんが、少なくとも多くの人々が、人種間の融和を大事に、社会を運営していきたいという気持ちは読み取れるような気がします。

After Low Yat clash, clip of Chinese youths singing ‘Selamat Hari Raya’ warms hearts on Twitter | Malaysia | Malay Mail Online

(Yahoo!ニュース個人掲載記事を転載)

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