都市の公共空間とTwitterは「ステージ」


新宿駅を通り過ぎる際に、ホームをハイスピード撮影した映像。まるで時が止まったように、ホームにいる人々の姿を切り取っている。

新宿駅をハイスピード撮影した動画が、人間模様を映し出していてすごい

Adam Magyar, Stainless – Shinjuku from Adam Magyar on Vimeo.

制作したのはベルリンに住む、ハンガリー人の写真家、Adam Magyarさん。作品のコンセプトについて「この作品は、写真と動画の境界に位置づけられるもの。延々と続く、電車待ちの人たちの姿はまさに、生ける彫刻なんだよ」と語っている。

話題になったこの動画に対して、「たつをのChange Log」は以下のように、この動画の面白さを十分に理解しつつある種の「難しさ」をやんわり指摘している。

[を] 肖像権やらプライバシー保護やらでアートを否定したいのではなく自分も同じことをやりたいわけです

でも、これって、肖像権やプライバシーの問題が残ります。撮影された人の許可は間違いなく取ってないだろうからほぼアウト。カメラを向けて拒否されなかったからOK、みたいな話は隠し撮りだから通らない。風景の一部、というには無理がある。これが許されるならグーグルストリートビューで顔をぼかさなくていいよね。

なんかこのへんがクリアされてないとモヤモヤします。

ぐちゃぐちゃ言ってるけど、私はこういうアートを否定したいのではないのです。むしろこれがOKなら自分もこういうことをやりたいと思っているのです。有名アーティストならおとがめなしだけど個人ならダメ、みたいな世界は嫌なのです。

以前、新津美術館の「おんな写真展」を見に行った。過去から現在にかけて、女性たちがどのように生きていたのかを写真で振り返ることができた。非常にリアルな写真が多かったのだが、90年代途中のある段階から、様子が少し変わった。「時代の流れ」で自然な姿を撮影するのが難しくなったと書いてあった。

新津美術館のおんな写真展 | Flickr – Photo Sharing!

というわけで、有名アーティストの側もまた、ストリートで撮影するのは実際にはいろいろと難しい環境にあるように思う。一方、秋葉原では小型カメラがたくさん売られていて、これを使って、極秘に撮影することが可能になっている。有名アーティストであれ個人であれ、まっとうな人は、技術の進化によって「表現者」としての地位を獲得したにもかかわらず、実は撮影することをためらう場面があるということだろう。逆にそんなことは気にしない「ならず者」は、やりたい放題になっているのかもしれない(実際カメラの高機能化の結果、駅での盗撮で逮捕されているケースは少なくない)。

都市に暮らす人々は、匿名化された「群衆」の一人として生活している。自分は東京から離れて10年以上がたち、お店に行けばバイトしている学生に会い、道を歩いていると知り合いに会うという環境にすっかり慣れてしまったが、最初はとても息苦しかった。東京に出張で出てくると、ほっとしたのをよく覚えている。今でも、東京を歩いていると、人の目を気にしないでよくなるために、ちょっとだけ気分が楽になったと感じることはある。

この「匿名化」された空間は、「冷たい」とはいうもののどこか居心地がよいところもあり、そこにどかどかと入り込んで撮影するというのは、権利以前に、撮られる側には抵抗がある行為なのだろう。もちろん、田舎の村にどかどかと入り込んで撮影するのも抵抗はあるだろうが、田舎の場合には「入り込む」という段階で「抵抗」がはじまり、「あんただれ?」という状態になるので、やや状況が異なる。新潟の都市部では村のようにはならないが、街を歩いていて知り合いに会う可能性は決して低くないので、完全に「匿名化」された気分で街を歩いている人、電車に乗っている人は少ないはず。

匿名化されているはずの都市住民のプライバシーは、突然何かの拍子で暴かれる。悪気がある場合もそうでない場合もある。この現象は、個人的に使っているつもりのTwitterアカウントでの発言が、ある時突如として注目を浴び、RTされ、まとめページに掲載されていくというのに、構造は似ているように思った。

ステージに上がっているつもりは全くないのに、突然スポットライトを浴び、幕が開き、多くの観客の前にさらされる。どちらのケースもその点では似ているのではないか(自分でTweetした結果か、勝手に見知らぬ誰かに撮影されたかという違いはあるにしてもだ)。だからどうすべきだということはないけれども、都市の住民というのは、公共空間ではいつ幕が開いているかわからないという状況にあり、それはある意味でやむをえない部分があるということを前提にした上で、たとえばそれが意に反する形で別の情報と結び付けられないようにする方法を考えるとか、実質的な悪影響を最小限にとどめる仕組みを、考え始めたほうがいいのかもしれない。

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