サイバー空間への国際法適用についての外務省見解:自衛権行使が可能?


政府の情報セキュリティ政策会議で、外務省が「サイバー攻撃に自衛権行使可能」という見解を述べたと、読売が報じた。ただよく見ると、そこまで踏み込んだ表明があったわけではなさそうだ。

サイバー攻撃に自衛権行使可能、外務省が見解 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

外務省がサイバー空間について、国連憲章など現行の国際法が適用されるとの見解をまとめ、4月26日に開かれた政府の情報セキュリティ政策会議に提示していたことが14日、分かった。

(中略)

 この中で、玄葉氏は「あらゆる検討の結果、サイバー空間にも従来の国際法が当然適用されるとの立場を取るのが適当だ」と述べ、サイバー空間の国際法上の位置付けを初めて明確にした。

つまり、従来の国際法が適用されるとするならば、サイバー攻撃への自衛権行使も認められる、と読売の記者が判断したと見るべきだろう。記事の中でも、「外務省の見解は、日本へのサイバー攻撃が他国からの「武力攻撃」とみなせる場合、自衛権の発動による防御措置に道を開くものとなる。」と書かれている。

実際どんな発言があったのかを見ると、外務省(と思われる出席者)の見解は依然慎重だ。

情報セキュリティ政策会議
第29回会合議事録要旨(PDF)

今日国際社会においてはサイバー空間に従来の国際法が適用されるかという根本的な議論がある。外務省としてあらゆる検討を行った結果、この問題については、基本的には、サイバー空間にも従来の国際法が当然適用されるとの立場を取るのが適当と考える。同時に、サイバー空間の特性に鑑み、個別具体的な法規範がどのように適用されるかについては、引き続き、議論していく必要があるとの立場である。この問題について、各国としっかり議論を行う。

かつて「通信」分野の発表を国際法の研究室でした際に、研究室の先輩に「この分野は領域性がない」と言われたことがある。「だからどうでもいい」という趣旨ではなかったと思うが、少なくとも從來の国際法が適用されるのはなじまない(少なくとも同じようには考えられない)という見解だったのではないかと思う。時代はかわり現在では、領域性を持たない「サイバー空間」の防衛というのは、非常に重要な問題として浮上してきた。今までの考え方を、どのような理論構成で踏み越えるかということが、課題になってきていると見るべきだろう。ことはサイバー空間にとどまらない。サイバー攻撃に対して「リアル反撃」を行うという形での自衛権行使も、当然理論的には考えられるからだ。リアルの自衛権行使との関係を整理する必要があるという点も、外務省を慎重にさせている理由の一つだろう。

さらには、いわゆる「帰属」の問題もある。相手国政府による「攻撃」であるかどうか、判断するのは難しい。これはゲリラ攻撃の取り扱いに似た問題があり、アメリカ政府はこの点を何度も踏み越えて武力攻撃に踏み切っているが、日本はどうするのか。この点にも手をつけざるをえない。

「同時に、サイバー空間の特性に鑑み、個別具体的な法規範がどのように適用されるかについては、引き続き、議論していく必要がある」というのは、上記の点を含むさまざまな論点を、これから十分検討する必要があるという趣旨であろう。たしかに「自衛権の発動」に道を開く結果になる可能性はあるが、まだ扉をちょっと開けて、光が差し込んできている段階である。「サイバー攻撃に自衛権行使可能」という見出しは、ちょっと踏み込み過ぎではなかろうか。

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