敬和学園大学の広報誌「敬和カレッジレポート」に寄稿:新潟のソーシャルメディアと敬和での教育について


フランス出張の前にすでに公開になっていたのだが、告知が遅れてしまった。
敬和学園大学の広報誌「敬和カレッジレポート」の69号に寄稿した。

内容は、2006年から敬和で情報教育を担当するようになって取り組んできたことや、新潟ソーシャルメディアクラブ(NSMC)、新潟フォトウォークなどの「新潟」でのプロジェクトについて。大学での活動については5年半とりくんできて、ようやく大学の広報誌にとりあげてもらえるようになった。実は大変感慨深い。今年もゼミの希望者は伸び悩んだようだし、大学や学科の中で、認知度が高まるまでの道のりはまだまだ長いのだが、「ソーシャルメディアで風通しがよくなった」大学として、その結果みんながハッピーになった大学として、認知度が高まっていくよう、さらに努力を積み重ねていこうと思う。またNSMCやフォトウォークも、同僚の皆さんには、ちんぷんかんぷんの世界なのかもしれないが、それでもとりあえず、自分の活動について知ってもらうきっかけになったとすれば、大変うれしい。

Keiwa Campus Report Vol.69

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校正前の原稿なのでひょっとすると中身が少し違うかもしれないが、すでに公表から時間もたったことだし、以下にテキストを貼り付けておこう。

敬和学園大学に「情報」科目の担当として着任して、5年が経ちました。これまでの5年間、前例にとらわれず、変動する情報社会に適応できる学生を育てようと努力してきました。せっかくの機会をいただきましたので、学内外でのソーシャルメディアを利用したこれまでの取り組みを、ご紹介させていただこうと思います。

 

着任当時ネット業界では、「Web 2.0」という言葉がもてはやされ、インターネットは次の時代に向かうという機運にあふれていました。この言葉はあまり使われなくなりましたが、「ソーシャルメディア」という昨今使われ始めた言葉が意味するところもまた、当時言われていたことの発展形といっていいでしょう。情報の送り手と受け手の分断された関係が終わりを告げ、ユーザの活動自体がコンテンツになるという潮流は、今も変わらず、社会の中で進行する現象そのものです。

 

当時新潟には、あるいは敬和学園大学の中でも、新しいウェブの潮流が広がっていく機運は、ほとんどありませんでした。しかし人文系の敬和だからこそ、学生や教職員の活動を支えるような、先進的なネット文化を育てられるのではないか。そう考えた私は、少しずつ新しいウェブの世界を授業の中に取り入れて行きました。残念ながら、当初の学生の反応はあまり芳しくありませんでした。2007年度から一部の授業で学生たちにも教え始めたTwitterは、まだメニュー部分が英語でしたし、学生たちの多くは、授業の後、普段から使っているmixiに戻りました。今思えば不遇の時代でした。

 

この間、私自身はしばしば上京して、ブロガーの集まる各種勉強会やイベントなどに積極的に参加して、進取の精神にあふれた人々にお会いしました。こうした経験の中で、学生がこの流れについてくるまでには少し時間がかかるかもしれないが、まずは新潟県内の社会人を対象に、コミュニティを作ってみようと考えるに至りました。

 

まず手始めに2009年から、当時の2年ゼミ(現4年)の学生たちと「新潟フォトウォーク」をスタートさせました。フォトウォークは、決まったコースをみんなで歩き、それぞれの視点で写真を撮るイベントで、撮った写真をFlickrなどの写真共有サイトにアップロードします。最初のフォトウォークは2009年6月に新潟市の上古町で開催しました。さまざまなサービスを通じて告知をしましたが、最初の参加者は10名でした。その後TwitterやFacebookが新潟でも普及するようになったことで知名度もあがり、徐々に参加者も増えるようになりました。これまで開催したのは、村上、新発田、五頭温泉(阿賀野市)、新潟、燕、田上、栃尾(長岡市)、弥彦、高柳(柏崎)、佐渡。最近は、開催地までの距離にもよりますが、毎回おおよそ30名以上の参加があります。9月に新潟市古町で開催した際には、50名もの参加がありました。

 

新潟フォトウォークで撮られた写真は毎回1000枚以上あり、位置情報のついたデータも多いので、アプリを利用して、iPhoneやiPadで地図からこれらの写真を見ることも可能です。単に写真を撮って歩くというだけでなく、地域の共有データベースを作っていくという「社会貢献」としての要素も、この活動には含まれていると考えています。

 

2009年には、新潟でも徐々にTwitterのユーザが増え始め、こうした人たちがフォトウォークにも参加してくれたり、小規模ながらリアルイベントも開催されたりするようになります。私自身もこのころから少しずつ、各種メディアなどで「Twitterに詳しい」敬和学園大学の教員として登場させていただくようになります(「Twitterに詳しい」という形容は、ちょっと恥ずかしいのですが)。2009年12月には、敬和学園大学のTwitterアカウント @keiwacollege が本格運用となり、大学の広報担当者から、さまざまな情報発信が行われるようになります。

 

こうした機運を受けて、2010年1月29日、新潟のコミュニティ「新潟ソーシャルメディアクラブ」(略称:NSMC)がスタートします。この日の参加者は70人ほど。ちょうどテレビ局もTwitterについて取材していて、この時の様子はテレビで放映されました。NSMCは私を含む7名のスタッフが運営していますが、会員組織を作るわけではなく、毎回オープンに誰でも参加できる形で開催しています。これまで9回のイベントを開催、新潟フォトウォークもNSMC主催として実施していますので、すでに20回以上イベントを、NSMCとして開催していることになります。イベントには、メディアジャーナリストの津田大介さん、ビデオジャーナリストの神田敏晶さん、テーブルマーク広報(当時)の末広栄二さん、アルファブロガーのコグレマサトさん・いしたにまさきさんなどをお招きし、お話をうかがうとともに、さらなる交流につなげてもらっています。私自身、これらの活動を通じて、多くの人々と知り合いになり、新潟県内各地に頼れる友人ができました。

 

NSMCというコミュニティの目的は、孤立する「アーリーアダプタ」(新しいウェブのサービスをいち早く試そうとする人たち)を支援すること。「アーリーアダプタ」の多くは、ネットオタクで話の通じない人たちではなく、むしろ非常にオープンで、コミュニケーション能力も高い人が多いのですが、新潟ではまだまだ少数派です。新しいツールを自社の仕事の中でも積極的に活用しようとして、社内で理解を得られず、苦しんでいる人も多いです。NSMCはこうした人たちをバックアップし、交流するための「場」を提供しつづけたいと思います。

 

ソーシャルメディアが普及する中で、敬和学園大学の中でも学生たちの理解も進み、TwitterやFacebookの利用が広がっています。Twitterは2010年から、必修の情報処理論1(と情報メディア論1)の授業で全員に教えるようになりました。使い方を教えるにとどまらず、「ハッシュタグ」という共通のキーワードを設定して、授業中の情報共有にも活用しています。学生のその場での書き込みをスクリーンに表示しながら進行しますので、講義内容の要約や質問が飛びかうことになります。学生たちも、最初はとまどいますが、みんなで情報を共有することの価値に、徐々に気付いてくれます。授業以外でも、教務課から休講情報が発信されるとともに、その他ささいな相談事も、差しさわりのない範囲でTwitterで共有されています。学生への普及が進んだ結果、広報、入試、就職などの各部門も、学生や地域の皆さんと交流するツールとして、TwitterやFacebookを活用していますし、教員の中にもTwitterやFacebookを使うメンバーが増えてきました。ソーシャルメディアを通じた「風通しの良い」大学が、ますます実現しつつあります。

 

私のゼミ生たちには、Ustreamというインターネット生放送サービスを利用して、お昼休みの生配信番組「Keiwa Lunch」を放送してもらっています。企画からゲストへの出演交渉、当日の進行まで、学生たちに全部自力でやってもらっています。この取り組みは新潟日報でも大きく取り上げていただきました。

 

ゼミ生たちには、新潟ソーシャルメディアクラブのイベントにも、できる限り参加するように指示しています。遠出をしたり、懇親会に出るのにはお金がかかるのですが、それ以上に得るものも多いと思います。県内各地の商工会議所などのTwitter・Facebook講習会に、私が講師としてうかがう際にも、できるだけ学生たちをアシスタントとして連れて行き、社会人のソーシャルメディアへの関心を、肌で感じてもらうようにしています。

 

これらの取組みは、「ネットに強い学生を育てる」という単純な意味で行っているものではありません。社会のあり方が変わり、一人一人が組織を離れても生きていける力が求められる中で、自ら発信し、人々とつながっていく力のある学生を育てていこうというのが、本当の狙いです。その上で大学では、検索エンジンで調べればわかることを教えるのではなく、その先を学生と教員が一緒に切り開いていく教育を、行う必要があると考えています。

 

ソーシャルメディアを利用した「風通しのよい」環境づくりは、敬和の掲げるリベラルアーツ教育の、本質の一部です「敬和カレッジ・レポート」の読者の皆さんとも、TwitterやFacebookでますますつながりや共感を深め、協力関係を深められるようになりたいと思います。

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