Moral Rights Forever? : 著作者人格権は永遠に存続?


池田信夫先生のブログのコメント欄で、三田さんの講演についての議論がまだ続いている。
リンク: 池田信夫 blog 三田誠広氏との噛みあわない問答.

なぜか途中で、「著作者人格権は消滅しない」という発言が出てきて、驚いたが、どうやら60条の著作者死後の人格的利益の保護についてもあわせて考えて、「著作者人格権は消滅せず、未来永劫残る」という理解になっているようだ。どうしてそういう理解になるのか、今一度考え直してみた。

詳細については、3月に小倉先生がブログですでに丁寧に整理されているので、先に読んでいただいたほうがいいだろう(先に読んでいただいてすっきりしたら、戻ってきていただく必要はないかもしれない)。
リンク: benli: 著作権の保護期間延長問題は人格権とは関係ない.

著作者人格権は、著作者の死後消滅する。

著作権法は、「著作者人格権が著作者の死によって消滅する」とストレートには書いていないが、59条のいう「著作者人格権は、著作者の一身に専属し」の「一身専属」権というのは、「特定の権利主体だけが行使あるいは享有できるものとされている権利の総称」(『法律学辞典』第三版より)と定義されるものだ。つまり著作者しか持ち得ない権利なので、譲渡はできないし、相続もできない。したがって、著作者の死とともに消滅する。このように理解して差し支えない。

でもだからといって、死んだとたんに著作物を好き勝手に切り刻まれるとすれば、著作者の生前の創作意欲に傷をつけるだろうというので、「著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為」を、著作者の死後も、禁止している。これが60条。禁止されているけれども、これは著作者人格権が存続しているからではない。が、それは理屈の問題に過ぎず、禁止されるんだからユーザからみたら一緒だろうといわれれば、そうかもしれない。

この禁止行為を行ったものに対する、差止請求権や名誉回復等措置請求権を有するのを、遺族が行使できる。結局著作者人格権を侵害するような行為を行うと、遺族に訴えられちゃうじゃないかといわれれば、その通りだ。でも著作者人格権が存続しているわけではない。

# このような制度になっている趣旨として、著作物は国の貴重な文化的所産であるから、国家的見地において、著作者の人格的利益を何らかの形で保護する必要があるということもあるようだ(作花文雄『詳解 著作権法』(第三版、ぎょうせい))。

「遺族」となりうるのは、孫の代まで。配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹。なので、これらの人々が全員死亡すれば、人格的利益を主張できる人はいなくなる。でもあくまでも「人格的利益」を主張しているのであって、著作者人格権を相続しているわけではない。

# 116条3項は、遺言によって、遺族に代えて請求権者を指定することができるとしている。けれども、存続期間は、著作者の死後50年又は(上に言う)遺族が全員死亡するまで、いずれか長いほうということになっているので、孫の代までみな死亡したが、まだ請求権者が生きていたということは、理屈上はありうる。

人格的利益を害された場合の遺族の損害賠償請求権を、著作権法は認めていない。ただし、不法行為に基づく損害賠償請求が認められたケースがいくつかあるようだ。

というわけで。著作者人格権は消えるけど、亡霊のような人格的利益に関する請求権が(主として)遺族に残り、それが実質的に著作者人格権の保護と同じような効果をユーザにもたらしている。というのは正しい。

でも孫の代までの遺族がいなくなったら、これで亡霊たる人格的利益は消えるのか。実は消えない。著作権法は120条で、60条の「著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為」を行った者に対する罰則規定が置かれている。これは親告罪ではないので、遺族が介在する必要はない。

というわけで、たしかに「著作者人格権」という権利が存続しているかどうかという点にこだわらなければ、人格権が保護しようとする利益は、何らかの形で、(徐々に実質的に弱まっていくと思うけれども)未来永劫保護されることになる。

中山信弘先生の著作権分科会での以下の発言が抜粋されていたが、これも上のような趣旨で読めば、合点がいく、はず。正確には人格権ではないけれども、議事録にそういう風に記述されてしまっただけだと思う。

【中山副分科会長】現行法では、著作者人格権の権利の終期はありません。今50年か70年かと言っているのは、専ら財産権の話で、人格権は理論的には永久
に存続する。ただ、請求権者が制限されておりますけれども、刑事罰は永久に続くというので、人格権についての延長の議論はない。ないというか、永久ですか
ら、議論する必要もないと私は思います。

あるいは、わざと「人格権」という言葉を使って、
岡田委員(JARACの岡田冨美子氏)の主張を押しとどめたのかもしれない。

- 著作権分科会第21回議事録(2007年1月30日)

ベルヌ条約の話題もが出てきているが、これはまた別の機会に。

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